マイクロ法人の続き
マイクロ法人を設立して、不動産から得る不動産収入に対して節税等のメリットを受ける。
その方法としては大別すると次の2つの方法に分けられる。
- 所有権を法人に移す方法
- 所有権は個人のまま、所得の一部を法人に移す方法
所有権を法人に移す方法
個人が所有する不動産を法人に移す方法は、実務上は次の三つに集約される。
- 売買
- 現物出資
- 無償譲渡(贈与)
売買
個人が所有する不動産を、自分が代表を務める法人(または家族の同族会社)に時価で売却するもので、最も一般的な方法になる。
所有権が完全に法人に移るため、家賃収入・売却益・固定資産税などすべてが法人帰属となる。

この方法の特徴は、家賃収入・売却益・固定資産税まですべてが法人帰属となり、所得・経費の流れが法人内で完結することがある。
家族役員への役員報酬支給、株式承継による相続対策など、不動産管理法人の標準的なスキームをそのまま適用でき、マイクロ法人による節税効果や社会保険料削減効果も最大限享受できる。
一方で、決算申告・社会保険手続き・取締役会運営など、個人保有にはなかった実務負担が増える。
移転コスト
移転時のコストは最も大きい部類に入り、下記のような不動産移転コストが発生する。
- 登録免許税:土地1.5%(軽減税率)・建物2.0%
- 不動産取得税:3〜4%
- 印紙税
- 司法書士報酬
移転コストのイメージは下記のようになる。

例えば、評価額1億円の収益不動産をマイクロ法人に売却した場合は、約501~611万円もの移転コストが発生してしまう。
また、個人が法人から受け取った売却代金から不動産の取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得にも、譲渡所得税(譲渡益×20.315%(長期譲渡))が課税される。
低額譲渡の問題
個人が法人(特に同族会社)に対して、時価よりも著しく低い価額(目安として時価の2分の1未満)で不動産を売却した場合、税務上は時価で売却したものとみなされ、時価を基準に個人の譲渡所得が計算される。
さらに法人側も、時価と実際の売買価額との差額が個人から贈与を受けたとみなされて「受贈益」として益金算入され、課税されるリスクがある。
このような二重課税を避けるため、個人から法人への不動産売却は、適正な時価(第三者間取引における通常の取引価額)で行うことが極めて重要となる。
ただし、法人側には不動産の購入資金が必要となる。
現物出資
新しく法人を設立する際、または既存法人の増資の際に、現金の代わりに不動産を出資する方法。出資した不動産の時価相当額が、出資者(個人)の保有株式に置き換わる。
移転税は売買と同じくかかるが、現金を用意する必要がない点がメリットとなる。
一方で、現物出資財産価額の総額(複数財産を同時に出資する場合はその合計額)が500万円を超えると、原則として裁判所選任の検査役の調査が必要になる。
検査役調査を省略するには、弁護士・公認会計士・税理士等による価額相当証明が必要で、不動産を出資する場合は不動産鑑定士の鑑定評価書も併せて取得することが法律上要求される。証明者の手配・鑑定費用も含めて段取りが必要になる。
譲渡所得税
個人が法人へ不動産を現物出資した場合も、税務上は資産の譲渡として扱われ譲渡所得課税の対象になる。
収入金額は原則として取得した株式・出資持分の時価で判断されるが、その価額が不動産の時価の2分の1未満となる場合は、不動産の時価で譲渡したものとして課税される。
無償譲渡(贈与)
個人が法人に対して不動産を無償で贈与する方法。
法人側では、 贈与を受けた不動産の時価相当額が「受贈益」として法人の益金に算入され、法人税の課税対象となる。
また個人側では、法人への贈与の場合は贈与税はかからないが、その不動産を時価で譲渡したものとみなされ(みなし譲渡所得課税)、取得価額よりも時価が高い場合には、その差額(譲渡益)に対して所得税・住民税が課税される可能性がある。
以上のように税務上の取り扱いが極めて不利となっており、二重に課税されるリスクがあることから個人から法人への不動産移転で「贈与」が選択されるケースは稀となっている。
所有権は個人のまま、所得の一部を法人に移す方法
所有権自体は移さず賃料収入だけを法人に集める方法として、次の2つの選択肢がある。
- 管理委託方式
- 一括転貸(サブリース方式)
管理委託方式
所有権は個人のまま据え置き、別途設立した管理会社(同族会社)に建物管理・賃借人対応・修繕の手配・賃料集金などの業務を委託する方式。
個人は家賃収入をそのまま受け取り、そこから法人に管理委託料を支払う形で、所得の一部を法人に振り分ける。

所有権の移転自体がないため、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税のいずれもかからない。法人の設立コストと毎年の維持コストだけで始められるため、初期負担は最も軽い。
管理委託料率
ただし、管理委託料の水準を恣意的に決めることはできない。
法人が実際に何をしているか、誰が賃借人対応をしているか、契約書と入金実態が一致しているかなどを税務調査で見られる。個人の所得をできるだけ多く法人に移転するために過度に高い管理委託料率を設定すると、税務署から否認されて追徴課税される可能性もある。
一般的には管理委託料率は5%前後が目安となっており、過去の判例などから高くても8~10%が限界だと言われている。
所得移転効果
法人に移せる所得は管理料の範囲内に限定されるため、所得移転効果は売買・現物出資よりもかなり限定されたものになる。
それに伴い、マイクロ法人の最大のメリットである節税や社会保険料削減についても効果は大きく目減りする。本方式は、「移転コストはかけたくないが、家族役員に少額の所得を移す程度で十分」というケースに向く。
一括転貸(サブリース方式)
所有権は個人のまま据え置き、法人が個人から物件を一括で借り上げ、それをさらに第三者(賃借人)に転貸する方式。
個人は法人から「賃料」を受け取り、法人は転貸先の賃借人から「転貸料」を受け取って、その差額が法人の収益になる。

所有権の移転がないため、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税はかからない。
サブリース方式の特徴は、法人が空室リスク・賃借人の家賃滞納リスクを引き受ける点にある。リスクを負う対価として、法人の取り分(転貸差益)は管理委託方式の管理料水準より高めに設定できる。ただしそれでも10~20%くらいが適正な範囲と言われている。
管理委託方式より所得移転効果は大きいが、個人と法人の間で正式な賃貸借契約(一括借上契約)の締結と、賃借人との転貸借契約の整備が必要で、書面上の手当ては管理委託方式より複雑になる。