それから、数日は不意に玄関のチャイムが鳴らされることが続いた。
ある時は朝、そしてある時は夜。時間はバラバラだった。
そのたびにドアの覗き窓を確認しに行くのだけど、毎回、そこには誰の姿も映らなかった。
なぜ?
誰が、何の目的でこんなことをしている?
恐怖を通り越して、その意味の分からなさに不気味さを感じた。相手の目的や意図が全く私には想像できなかった。それがますます気持ち悪く感じる結果につながった。
年も明け、1月2日になろうとしていた。
その日も朝、ピンポーンとチャイムが鳴らされた。
もはや私はドアの覗き窓を見に行くことも無かった。ただ、5分ほど待ってからドアを開けて外に出た。当然のようにその玄関前の通路には誰の姿も見えなかった。そのまま外に出てみる。そして自分のマンションの周りを調べるようにゆっくりと歩く。正月休みの朝の街は静まりかえっており、何の異常も無かった。途中、誰かの姿を見ることも無かった。
これ以上歩いても意味が無いか、そう思い自分の部屋に引き返す。
そして、ドアの前に立って、鍵を開けようとした。
ふと、チャイムを鳴らす人の身になってみようと思い立ち、自分の部屋のチャイムのボタンを押してみる。部屋の中にピンポーンという音が響いた。
あれ?
そのボタンを押したときに、何か違和感を感じた。
もう一度ボタンを押してみる。
ボタンが途中で引っかかって半押しのような状態で止まっていた。ボタンの動きが渋くなってしまっていることが原因のようだった。
もしかして、このように半押しに状態になっていたから、ボタンの接点が微妙な接触状態で止まっていたということはないだろうか。その接触状態の微妙な変化でチャイムが時々鳴ってしまっていたということは無いだろうか。
ボタンを指でつまみ上げ、その半押し状態を解除する。
そして何度かボタンを押してみる。どうやら引っ掛かりは解消したようだった。
結局、その「半押し」が原因だったようで、それ以降、誰もいないのにチャイムが鳴ることは無くなった。
私のこの出来事は、結局はボタンの不具合が原因だったのだけど、その数日間の恐怖は今でも忘れない。