先ほど玄関のチャイムを鳴らした人物は、12月30日の深夜2時にチャイムを鳴らした人物と同じなのだろうか。
深夜2時にチャイムを押すということ。
そして先ほどチャイムを鳴らした人物も、私からの応答に全く答えず、玄関前から姿を消している。
この二つの行動には同じような狂気の匂いがした。だから私は、この二人の人物は同じなのだろうと結論付けた。
でも、なぜそのようなことをしたのだろうか。
その目的はどこにあるのだろうか。
部屋で一人そんなことを考えていた。
同じマンションに住む人からの苦情だとしたら、すぐに姿を消すというのもおかしい。誰かのいたずらだとしても、そもそもなぜそのようないたずらをするのかも私には理解できなかった。そして、その理解できなさが、不気味な恐怖を私に運んできた。
そして、夕方ごろだろうか。
再び、ピンポーンとチャイムが鳴らされた。
私はインターフォンに出ることも無く、すぐにドアに向かった。そしてドアの覗き窓から外を覗き込んだ。チャイムが鳴ってすぐに玄関に向かったはずなのに、その覗き窓から見える私の玄関前の空間には誰の姿も映していなかった。
「え?」
なぜ、そこに誰もいないのか。
そこに誰もいないということは、チャイムを鳴らした人物はすぐにそこを立ち去ったということを示している。それこそ私に何かしら用事があってそのチャイムを鳴らしたのではないことは明らかだった。もし私に用事があってチャイムを鳴らしていたのだとしたら、少なくともその場にしばらくは居るはず。
いたずらなのか。
ただ、この一連のいたずらが同一人物だとしたら、わざわざ12月30日の深夜2時に私の玄関前まで訪れてチャイムを鳴らすという行為が、単純ないたずらという範疇を超えていた。
そこにはいたずらを超えた「悪意」が潜んでいる気がした。
そしてその「悪意」がなぜ自分に向けられたのか、まったく心当たりが無かった。