仕事の引継ぎについて
退職を上司に告げてから、平日の勤務中は私は身の周りの整理をしながら、その当時私が担当していた業務に関する情報をDBに整理を始めた。
誰かがこの仕事を引き継ぐことになる。
その時になってその後継する人ができるだけ困らないようにしようと思っていた。正直言ってその仕事がつらくて会社を辞めて転職するような状態だったから、その後継者にはそのつらさができるだけ低減するように必要となる情報が私の退職後でもしっかりと参照できる形にしたいと思っていた。変な話、 私はそのつらさから逃げ出したのだから。
上司へ退職通告後数日して、私の仕事に対してもう一人の担当がつくことになった。
まだ私の退職自体は、私の部署、そして周りの関連部署に通告はされていなかった。だけどその私に付いた担当者ははっきりとは言わなかったけど、上司から私が退職することは告げられていたのだと思う。そして私の後を継ぐという形で私の下に入ったのだと思う。その担当者は私よりも年次は若く、今まで一緒に仕事はしたことはなかったけど私の後輩でもあった。
私はその担当者にできるだけ丁寧に仕事について教えていった。
入社2年目の記憶
そのとき、私はある一つの出来事を思い出していた。
私が入社2年目の時、私の2年先輩の社員の下について一緒に仕事をすることになったのだ。
その仕事はその当時開発中の新機種の一つの機能とその機能評価を担当するもので、正直色々と問題が発生してうまく進んでいない状態だった。まだ2年目ということもあって、基本的にはその先輩の指示に完全に従う形で仕事を進めていた。私はあくまでも「サポート」としてその仕事を手伝っているのだという意識が自分の中にあったのだと思う。完全な指示待ち人間に成り下がっていた私に、その当時の先輩はどこか不満そうな表情を時々見せていた。
その仕事を初めて2か月くらいだろうか、私はその先輩社員から直接、
「今度、転職のため会社を辞めることになった」
と告げられた。
その言葉を聞いた瞬間から、私はお手伝いという形でそれまで他人事のように進めていたその機能評価が「私自身が何とかして解決しなければならない問題」に変わったのだ。私自身が乗り越えていかなければならないこれから先の様々な高い壁を想像すると、本当に暗澹たる気持ちに襲われた。
製品を開発するとなったら、自分の責任でもって何とか目の前の問題を解決しなければならないのはある意味では当たり前の話だった。明確に期限が設定され、その期限内に、まだ答えも見いだせていない問題自体を解決することを要求される。正直先のまだ見えない問題を抱え込んだ時は、言葉の比喩とかでもなく本当に心配で夜も眠れなくなる。製品を開発するということはそのような経験を何度も何度も経験するということ以外の何物でもなかったのだけど、その当時の入社2年目の私にはまだそのような覚悟が無かった。
その当時の私自身の不安を思い出していた私は、目の前の機種開発で発生してる問題をできるだけ解決に近づけてから会社を去ろうと思っていた。
退職通告後すぐに引継ぎに移るのかなという思いもあったのだけど、変な話、退職通告後の方がより必死になって何とかその問題を解決しようと長時間の残業をすることになった。どうせあと数週間もすればこの会社を去るのだ。もう私には守るべきものは無かった。