検査を終えると看護師は小部屋から外に出て、いくつかの書類を手にして私の前に立つ。
「解熱剤が処方されているので、この袋の中に入れてあります。あと、家に帰って検査の結果が出るまでは、この質問票に入力するようにしてください」
と、薬が入った一つのポリ袋と、2枚組の書類を手渡された。その書類の表を見ると次のように書かれている。
新型コロナウィルス感染症の検査を受けられたみなさまへ
- 検査結果が出る前に質問票を入力してください
- 「自宅・宿泊療養のしおり」をご覧ください
自宅・宿泊療養。
この文字が私の目に入った途端、
「もしこれで検査が陽性になったら、どうなるんだろう」
という思いが自分の中に沸き起こって来た。
今まで「コロナ」は対岸の火事のような感覚しかなかった。
私の身の周りに感染者はいなかったし、まるで遠い世界の出来事のように「第六波のニュース」をテレビで見るだけだった。だけど、この「自宅・宿泊療養」の文字は、その「コロナ」が決して対岸の火事ではないのだということを、改めて自分に突き付けてきたのだ。
会社は当分休むことになるだろうし、もしかしたら宿泊療養という形で、どこかのホテルに隔離されるのあろうか。
少なくとも、これから先の1~2か月は私にとって激動の期間になることだけは感じた。
コロナ検査における診察料も薬代金も、後日支払うという形のようだった。
そもそも〇〇クリニックで私と対したのは検査の看護師一人だけで、医師から診察を受けるということも無かった。おそらく、来院前に自宅から電話をし、医師と電話越しで話したこと自体が「診察」という位置づけだったようだ。いわゆるリモート診察。まあ、医師への感染リスクを考えるとそれも仕方ないか。
私はその処方された薬と数枚の書類を手渡されただけで検査は全て終了し、そのまま帰宅するように指示された。
帰り道も約30分近く賭けて2kmの道のりを歩いて帰る。
単身者が病気をすると本当に大変だ。
ただ、その頃は熱は37.0℃を少し超えるくらいまで下がっていたし、それ以外の頭痛や倦怠感などの症状もだいぶ収まっていたので、何とかその距離を歩いて帰ることが出来た。
家に着いたのが午後0時半くらいだったと思う。
簡単に昼食を食べ、手渡された書類に目を通す。
そして、書類の案内に沿って神奈川県の質問票に入力しようかなと、その専用サイトを開いて内容を確認しているときに、一本の電話がかかってきた。
検査の時に、検査結果は当日中に電話連絡しますと言われていた。
スマホに見覚えのない番号が表示されていた。私は意を決して通話ボタンを押す。
「はい、〇〇です」
「〇〇クリニックですが、検査結果が出たのでお知らせします」
「はい」
「抗原検査の結果は、陰性でした」
「・・・そうですか」
「熱が下がってから48時間以上たったら、会社への出社も問題ないかと思いますが、実際の出社については会社と相談するようにしてください」
「・・・分かりました」
まあ、そうだよね。
熱が出たと言っても、咳は全くでなかったし、鼻水が出るというような症状も無かった。原因不明の発熱は気持ちが悪かったけど、それでもコロナとはどうやら症状的に違っていると感じていた。
ただ、今回、発熱外来というところに初めて行って、この世界を覆っている「コロナ」というものを初めて身近に感じたというのも事実だった。