深夜2時に玄関のチャイムを鳴らした人物はいったい誰だったんだろう。
次の朝になっても自分の心の中に渦巻いている気持ち悪さは消えなかった。
そして頭の中では色々な可能性を考えていた。例えば、同じマンションに住んでいる住人の何かしらの苦情。以前、ドアのポストに
「ドタドタうるさいので、静かにしてください」
というメモ用紙の切れ端に書かれた書置きを、玄関ドアのポストに投げ込まれたことを思い出していた。それと同じ人物かどうかは分からないけど、同じように騒音などの苦情を言いに来たのだろうか。ただし、そのメモ用紙を見て以来、できるだけ家では大きな音をたてないようにしてきていたし、12月30日の年末にわざわざそれを言いに来るのも変な気がした。
あるいは、何かしらの変質者が来たのだろうか。
その可能性の方が高いような気がした。それと同時に、私の中の気持ち悪さは一層募っていった。
12月31日の大みそかは、いつものように午前は本を読んで過ごし、そして昼食を食べてすこし休憩しているときだった。
ピンポーン。
また、玄関のチャイムが鳴ったのだ。
さすがに無視し続けるわけにもいかないので、インターフォンを取り上げ、
「はい」
と声をかけた。
だけど、その受話器からは近所の雑音が入るだけど、誰の声も流れてこなかった。
誰?
私は受話器を置いてドアにゆっくり近づく。
そしてドアに設けられている覗き穴から外を観察した。私の玄関ドアの外には誰の姿も見えず、ぽっかりと空いた空間だけがそこにはあった。すぐにドアを開けてしまうのが怖かったから、5分ほど時間を空けて、また覗き穴を覗く。依然としてそこには誰にもいなかった。
意を決してドアを開けることにした。
用心のためチェーンをかけたままでドアを開ける。
そして小さく空いたドアの隙間から外の様子を観察した。何も異常は無さそうだった。一度ドアを閉めて、チェーンを外して再びドアを開けた。顔を外に出し、ドアの前の通路の左右に目をやる。
私が住むマンション一階の通路には、誰の姿も見えなかった。