二次試験(面接)当日
私は面接というものが本当に苦手だった。
学生時代の就職活動でもその面接で本当に苦労した。私の人間としての気質として、自分の考えをきちんと言葉で表現するということが本当に苦手なタイプの人間だった。それは学生時代もそうだったし、今になっても変わらない。それに対しては私は、
「人は向き不向きがある。自分の弱みに囚われるよりも、自分の強みに特化するような生き方をするべき」
と自分に言い聞かせるようにずっと生きてきたのだけど、それでも、例えば「面接」というような場所ではその私の弱みとなる能力を要求されてしまうというのも一つの事実だった。 その弱みとなる能力、その能力の欠落によって、自分の人生の進路も大きく左右される。そんな経験をずっとしてきた。
そのような状態だったから、正直、その二次試験の面接に対して気が重くて仕方がなかった。
どう考えても、うまくその面接をやり過ごすイメージを自分の中で持つことが出来なかった。
土曜日の朝早い関内駅前は、さすがに人通りもまばらだった。
横浜市研修センターが入っている建物は1~2階は消防署となっていて、その上に研修センターがある。案内に従って階段を上り、張り紙がされている一室に入った。すでに何人かの受験生は席についていて、私は前の黒板に書き出された座席順に従って席に座った。
しばらくすると係員らしき人が入って来た。
そして黒板に、面接のスケジュールを書き出していく。私の順番は2番目だった。しかも一人の面接に50分も時間がとられている。
「50分も何を話すんだ?」
その50分が、どう考えても息苦しい50分になるとしか思えなかった。
その係員は黒板にスケジュールを書き終えると、その後面接についての簡単な説明に入った。
「自分の面接が終わったら、黒板の自分の受験番号を消してください。そして次の人は消されてから5分後に面接の会場に向かってください。面接が終わった人は、そのまま帰ってもいいです」
面接時間は50分となっているのだけど、おそらく内容によって時間は前後するのだろう。
その後の面接の進行を受験者自身で行ってもらうための方法らしかった。
面接
前任者が面接をしている間、私は特にすることも無かったのでぼんやりと前を見続けていた。
50分程度たったところで、待合室となっている部屋に一人の受験生が帰って来た。そして私の前に書かれていた受験番号を消す。それは、私の面接がこれから行われるといいう一つのサインだった。
私は5分時間を測って席を立った。
面接会場となる会議室の入り口をノックする。
「どうぞ」
という言葉を待って、中に入った。
目の前には椅子が一脚おかれ、その椅子に相対するように置かれている机に3人の横浜市職員らしき人が座っていた。私は作って来たA4資料をその人たちに渡す。そして
「自己PRをお願いします」
という言葉を合図にして、私はあらかじめ考えてきたストーリーをひたすらしゃべり続けた。
その内容についての質問がいくつかあった後で、実質的な面接に移った。
やはり、重点的に聞かれたのは、
「今までメーカーで製品設計をしてきたのに、30歳を過ぎて横浜市職員に転職しようと考えた理由は?」
ということだった。正直なことを言えば、
「今の仕事から逃れるためです」
ということだったのだけど、当然そんなことを言えるわけがない。かといって、それ以外の理由が私の中には無かったのだから、答えようが無かった。私は、
「公務員として住民のために働きたいと考えたからです」
そんな抽象的な理由をごり押しするしかなかった。目の前の人たちがその言葉で納得していないことはこちらから見てもはっきりと分かった。