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和也(31)は転職して、ある中堅の商社に入社する。
その同じ職場にいたのが樹里(28)だった。
樹里は明るく、職場の人気者だった。
その姿に惹かれ、和也は樹里を食事に誘う。
和也と樹里の距離が徐々に縮まる。そして和也と樹里は付き合うことになった。
和也の親友、貴志(31)。
和也は貴志に樹里を紹介する。
貴志は始めは樹里の明るさに「いい子だな」という印象を抱く。
ただし、少しずつ違和感を感じ始める。
「何かがおかしい」
貴志は親友である和也が心配になって、樹里の過去を探る。
数日後、貴志はビルから転落して亡くなる。ビルの屋上には「遺書」が置かれていた。
不審な痕跡も無かったため、警察は自殺で処理する。
和也は貴志が自殺したことが信じられなかった。
その数日前に貴志から連絡をもらっていた。
「樹里さんのことでお前に話したい事がある」
「なんだ?」
「電話では話せない。直接会って話したい」
結局、その話したいことを聞く前に貴志は亡くなってしまった。
警察にそのことも話したのだけど、警察は取り合ってくれなかった。
貴志の自殺の後、樹里は煙のように消えてしまった。
「まさか、樹里も何かしらの事件に巻き込まれてしまったのではないのか」
樹里のことが心配になって、和也は樹里を探す。
過去の知り合いを捜し歩き、同時に、樹里自身の過去も知ることになる。
学生時代はおとなしくて、親しい友人は一人もいなかった。影も薄く、同級生は樹里のことをよく覚えていなかった。
25歳の時に、ルームシェアをしていた一人の女性がいたらしい。
彼女とだけはとても仲良くしていた。ただ、それから1年間、空白があった。どう調べても、その1年間の彼女の痕跡をたどることが出来なかった。だけど26歳の時に、事務職として今の会社に採用された。
この1年間に何があったのか。
そんなとき、和也のもとに一通の手紙が届く。
差出人は「中山樹里」と書かれていた。
急いで開封して中身を確認する。
手紙には、
「〇月×日、△に来てください」
とだけ書かれていた。
△はかつて児童養護施設があった場所で、和也自身にもまったく見覚えが無い場所だった。
和也が△に行くと、そこではがらんどうになった建物に樹里が一人いた。
樹里は自分の過去を和也に話す。
母の内縁の夫から虐待を受ける樹里。
両親を事故に見せかけて殺す。
「まだ小さい子供だった私を疑う人間は誰もいなかった」
身寄りのいなかった樹里は△に預けられる。
「そこには何の希望も無かった。私はただ未来が欲しかった。ただ希望が欲しかった」
自分の人生をリセットするために、施設から逃げる。
そこで知りあったのが「中山樹里」だった。
「樹里」を殺して、その身分を奪い取る。そして1年間かけて整形手術を行い、顔を「樹里」に近づけていった。
「あなたは、今日殺されるかもしれないと、毎日おびえながら生きる人生を想像できる?」
「世界は私を救ってはくれなかった。私は私が救うしかなかった」
「私はただ、普通の人のように学校に行きたかった。普通の人のように家族を作りたかった。普通の人のように平凡な人生が欲しかった。それだけなのに、私の望みは贅沢な望みだったの?」
樹里は和也を建物に閉じ込め、そこに火を放つ。
「私と一緒に死にましょう。こんな世界に私たちは居続けるべきじゃない」
「お、お前は狂っているよ・・・」
「私は狂っていない」
樹里は悲しそうな表情で和也を見つめる。
「狂っているのは、この世界の方なんだよ」
登場人物
中山 樹里(28)
幼いころに親から虐待を受けていた。事故に見せかけて両親を殺す。
佐藤 和也(31)
転職先の職場で樹里と出会う。明るい樹里に少しずつ惹かれ始める。
岩本 貴志(31)
和也の友人。樹里に不信感を抱く。