テーマ
近未来(2050年)。
脳移植の技術は進歩し、移植事例が増えてきていた。
ただし、脳の移植は別の臓器の移植と本質的な違いがあるため、「脳移植法」でその方法は厳密に規定されていた。まだ脳移植は「実験」という意味合いが強く、そのためのルールも厳密に規定されている。
脳移植のためには「コントロールされた死」が必要。
脳だけを特異的に殺す必要がある。
「死刑」は国が合法的に人を殺すシステム。
「脳移植」と「死刑」を結びつけたのが「脳移植法」。
脳移植を科学的な視点から描く。
末期がん患者の原達也(主人公)。
全身に転移し、余命2カ月。
そこに、脳死と判定された中村健一の体が搬入された。
脳移植が実施される。
中村の体でよみがえった達也。
「脳移植法」では、献体が死刑囚の者であるという点から移植者のその後の生き方についても厳密な制限があった。
そのような制限がないと社会が混乱してしまう。その制限を受け入れたものだけが、移植対象者リストに載せられる。
脳移植が行われて、それによって生きながらえた達也。ただ、そこでパーソナリティに大きな異常が発生する。
「私は誰なんだ?」
大きな葛藤が発生する。
達也の妻 朋美。移植法の制限の元、もう達也は美帆と会うこともできない。
ある日、達也は自分の体に残された傷に気付く。
「何かのメッセージなのだろうか?」
もし中村が冤罪によって死刑にされていたとしたら?
そのためのメッセージを自分の体を通して達也に託していたとしたら?
達也は、自分の命を救ってくれた中村の願いを何とかして叶えてあげたいと思う。だけど「脳移植法」の厳しい条件の中、中々自由に行動することが出来ない。
「あなたは、私の「生きたい」という願いを叶えてくれた。だからもしあなたに私に叶えてもらいたい願いがあるのなら、私は何としても叶えてあげたい」
そう強く思う。
達也は、中村は生前、冤罪を訴えていたことを知る。
達也は自分の体に残されたメッセージを通して、真犯人を探そうとする。それは中村の残された娘 綾乃に係るメッセージだった。そこで綾乃が重要人物として現れる。体に残されたメッセージをその綾乃に伝えれば、きっと真相が見えてくるはず。
そのことに気付いた真犯人は綾乃を消そうとする。
達也は中村の冤罪を晴らすことが出来るのか。
綾乃を守ることが出来るのか。
達也の体に拒絶反応が現れ始める。
「中村さん。私はあなたからもらった命を、少しでも有意義に使うことが出来たのだろうか?」
達也は最後に、妻の朋美と会うことを特別に許される。
登場人物
原 達也(35)
主人公。末期がんを告知され、全身に転移。脳移植を受ける。
原 朋美(32)
達也の妻。
中村 健一(35)
死刑囚。冤罪を主張。
冤罪を晴らすため再審申請をしていたが、裁判所により却下。死刑が確定する。
脳移植の検体となることに同意する。
中村 美帆(35)
健一の妻。
中村 綾乃(14)
健一の娘。
健一の事件の重要な情報を持っている。