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田代(45)。タクシーの運転手。
脱サラしてタクシーの運転手をしている。まだタクシー運転手に転職して日が浅い。
深夜の街角で若い女性を乗せる。
無線機から「感度不良」の言葉。
「感度不良ってどういう意味ですか?」
「タクシー業界の隠語なんですよ。この先に交通取り締まりがあることを表しています。一応隠語なので、誰にも言わないでくださいね」
少し女性の呼吸が荒い。気になってバックミラーを見る。
ふと、乗客のコートの裾がべったりと赤い何かに染まっていることに気づく。
「けがをされているんですか?」
「どうして?」
「そのコートの赤い染み」
「・・・」
若い女性は何も答えない。不気味な笑みを浮かべたまま黙っていた。
息の詰まるような沈黙がタクシーの中を覆う。
運転手は無線機を手に取り、
「こちら12号。カバンの忘れ物あり。カバンの忘れ物あり」
と言葉を出す。
「カバンの忘れ物ってどういう意味ですか?」
「その言葉の通りの意味ですよ。前の客が忘れていきましてね」
「まさか、何かの隠語じゃないでしょうね」
「・・・」
「たとえば、乗客が人殺しだとか」
「・・・何を言っているんですか、お客さん。冗談はやめてくださいよ」
田代はひきつった笑いを浮かべる。
目的地に着く。
「お客さん、到着しました。料金は2000円です」
「ごめんなさい、目的地を変えてもいいですか?」
「え?」
「もう少し、このタクシーに乗っていたくて・・・」
女性は持っていたバッグに手を差し込んで、何かを探すように中をまさぐっている。
田代はドアを開けて外に飛び出す。そのまま走り出す。
警察に電話をしようとも思ったけど、別にその女性から何か危害を加えられたわけではない。
とりあえずタクシー本部に連絡する。タクシー本部から警察に連絡するとのことだった。
意を決して30分ほどして車に戻ると誰もいなかった。
田代が飛び出していって、あの女性もどこかに行ってしまったようだ。車に戻る。ドアを閉め、後部座席に何か異常が無いかとのぞき込む。シートは赤くべっとりと染まっていた。
「これは・・・・?」
ドン! ドン! ドン!
窓を強くたたく音。
びっくりして音の方を見るとあの女性が無表情で右手で窓をたたいている。
左手には真っ赤に染まった包丁を握りしめていた。
タクシー本部から通報を受けた警察がやってくる。
「どうかされましたか?」
女性が警察官の胸を包丁で一突きする。女性は無表情。
車のエンジンをかけようとする。エンジンがかからない。
無線機も壊されている。
ドン! ドン! ドン!
窓を執拗にたたく女性。窓にひびが入り始める。
田代は助手席に移り、外に出る。後ろも振り返らずにひたすら走り続けた。
後日。
後部座席には女性の死体。そしてタクシーの外には警察官の死体。
実は、女性は田代が作り出した妄想だった。
「違う、私じゃない。確かに女がいたんだ」
あるタクシーの中での雑談。
「お客さん、タクシー業界にこんな隠語があるって知っていますか?」
「何ですか?」
「幽霊が出たって言うんですよ」
「どういう意味ですか?」
「運転手が精神疾患を持っていて、乗客に危害を加える恐れがあるという意味なんですよ」
運転手が不気味に笑った。
登場人物
田代 勇輝(たしろ ゆうき)(45)
タクシーの運転手。男。まだタクシー運転手に転職して日が浅い。
横井 秋穂(よこい あきほ)(27)
乗客の女性。タクシーの乗客。
片岡 繁利(かたおか しげとし)(30)
警察官。男。普通の警察官。
構成表
状況設定
- 田代(45)。タクシーの運転手。脱サラしてタクシーの運転手をしている。まだタクシー運転手に転職して日が浅い。
- 深夜の街角で若い女性を乗せる。
- 無線機から「感度不良」の言葉。
- 「感度不良ってどういう意味ですか?」
- 「タクシー業界の隠語なんですよ。この先に交通取り締まりがあることを表しています。一応隠語なので、誰にも言わないでくださいね」
- 少し女性の呼吸が荒い。気になってバックミラーを見る。
- ふと、乗客のコートの裾がべったりと赤い何かに染まっていることに気づく。
- 「けがをされているんですか?」
- 「どうして?」
- 「そのコートの赤い染み」
- 「・・・」
- 若い女性は何も答えない。不気味な笑みを浮かべたまま黙っていた。
葛藤
- 息の詰まるような沈黙がタクシーの中を覆う。
- 運転手は無線機を手に取り、「こちら12号。カバンの忘れ物あり。カバンの忘れ物あり」と言葉を出す。
- 「カバンの忘れ物ってどういう意味ですか?」
- 「その言葉の通りの意味ですよ。前の客が忘れていきましてね」
- 「まさか、何かの隠語じゃないでしょうね」
- 「・・・」
- 「たとえば、乗客が人殺しだとか」
- 「・・・何を言っているんですか、お客さん。冗談はやめてくださいよ」
- 田代はひきつった笑いを浮かべる。
- 目的地に着く。
- 「お客さん、到着しました。料金は2000円です」
- 「ごめんなさい、目的地を変えてもいいですか?」
- 「え?」
- 「もう少し、このタクシーに乗っていたくて・・・」
- 女性は持っていたバッグに手を差し込んで、何かを探すように中をまさぐっている。
- 田代はドアを開けて外に飛び出す。そのまま走り出す。
- 警察に電話をしようとも思ったけど、別にその女性から何か危害を加えられたわけではない。とりあえずタクシー本部に連絡する。タクシー本部から警察に連絡するとのことだった。
- 意を決して30分ほどして車に戻ると誰もいなかった。
- 田代が飛び出していって、あの女性もどこかに行ってしまったようだ。車に戻る。ドアを閉め、後部座席に何か異常が無いかとのぞき込む。シートは赤くべっとりと染まっていた。
- 「これは・・・・?」
- ドン! ドン! ドン!
- 窓を強くたたく音。
- びっくりして音の方を見るとあの女性が無表情で右手で窓をたたいている。左手には真っ赤に染まった包丁を握りしめていた。
- タクシー本部から通報を受けた警察がやってくる。
- 「どうかされましたか?」
- 女性が警察官の胸を包丁で一突きする。女性は無表情。
- 車のエンジンをかけようとする。エンジンがかからない。無線機も壊されている。
- ドン! ドン! ドン!
- 窓を執拗にたたく女性。窓にひびが入り始める。
- 田代は助手席に移り、外に出る。後ろも振り返らずにひたすら走り続けた。
解決
- 後日。後部座席には女性の死体。そしてタクシーの外には警察官の死体。実は、女性は田代が作り出した妄想だった。
- 「違う、私じゃない。確かに女がいたんだ」
- あるタクシーの中での雑談。
- 「お客さん、タクシー業界にこんな隠語があるって知っていますか?」
- 「何ですか?」
- 「幽霊が出たって言うんですよ」
- 「どういう意味ですか?」
- 「運転手が精神疾患を持っていて、乗客に危害を加える恐れがあるという意味なんですよ」運転手が不気味に笑った。